小さな  ちいさな












学校帰りの夕方。

二人で肩を並べながら、ゆっくりと帰路を進む。

それはとても暖かくて、幸福な時間。






「あのね、銀…」


不意に、足を止めた望美の表情が曇る。


「神子様?」






どうなさったのですか?






と、銀も足を止める。






困惑したような、望美はそんな表情をしていて。

銀の胸が、きゅんと締め付けられる。






「あの、ね…」


言いにくそうに、望美は俯く。






「…もう、学校まで迎えに来なくて良いよ」






望美の唇から紡がれた、拒否の言葉。

あまりにも突然で、銀は動揺を隠すことが出来ない。






「…ご迷惑、だったのでしょうか」






泣いてしまいそうだ、と銀は思う。






学校帰りの望美を迎えに行くことは、銀にとって、とても幸福な時間だった。

待たせないように…と一生懸命自分に向かって走ってくる姿も、

照れくさそうに…だが嬉しそうに腕を組むその姿も、

銀はとても好きだったから         






「迷惑なんかじゃないよ! そうじゃ、なくて…」


困惑した望美の顔に、ほんのりと赤みが差す。


「…言っても、笑わない?」


「はい、決して」


内容によってはですが…とはあえて言わず、いつものように銀は微笑む。


駄々をこねる子供のような顔を見せ、望美は少しだけ目を逸らした。






「…女の子たちが、みんな銀を見てるから」






きょとんと、銀は目を丸くする。


その一方で、望美の頬は見る見ると紅潮していく。


「だって、みんな銀を見て顔赤くしたりしてるんだよ?
話しかけたりしても、銀は優しいから笑顔で答えてて…。それが逆にファン作ってたりするし…」






    
私だけの銀でいて欲しいもん。






無邪気な子供のワガママのような言葉。

それはとてもささやかで、小さな嫉妬。



あまりにもその姿が可愛らしくて、

その言葉が嬉しくて、

銀は望美の身体を腕の中に閉じ込めた。






「し、銀…っ」


「申し訳ございません。ですが…」






     どうか、このままで。






耳元で、優しく囁く。


この温もりを、この愛しさを、全身に感じながら。






「ひ…人が見てるよ」


「申し訳ございません」


「恥ずかしいよ…」


「申し訳ございません」






恥らうその姿も、イチゴの様に赤い頬も、とても愛おしくて…

幸せで、幸せで、どう表現したら良いのかわからない。






赤面のまま辿り着いた自宅の門の前で、銀は再び望美の身体を抱き締めた。


「し…銀っ」


「明日からも、また神子様をお迎えに上がります」


でも    と上を向いた望美の顔に息がかかるくらい近づいて、銀はふわりと微笑んだ。






「神子様を狙う不埒な輩からお護りするために」






「そ…そんなこと…っ」


銀との距離があまりにも近くて、恥ずかしくて、望美の頬が更に紅潮する。


「お気づきではなかったのですか? ご自身が、とても魅力的でいらっしゃること…」


「し…銀…」






服を通してもわかる、望美の鼓動。

一段と早く、熱い。






そして、その耳元で囁く言葉は、

ささやかで、小さな願い。






    
私だけの神子様であって欲しいのです。






暖かく優しく微笑んで、銀はその愛らしい唇に口付けを落とした。






私は、いつだってあなたのものだよ。






そう紡がれるはずだった言の葉は、

銀からの熱く、甘い口付けに、

とろけるように飲み込まれた。


















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